フレイルの意味は?予防方法(食事・運動)6つのポイントを簡単にわかりやすく解説
定年退職した後も、趣味のゴルフや囲碁をするため、活発に出かけていたお父さん。
それなのに、免許の返納がきっかけで自分からは外に出なくなってしまった。
昔は柔道をしていて体格もよかったのに、会うたびに痩せていく気がする…。
歳を重ねるごとにだんだん元気をなくしていく親を見ると、とても心配になりますよね。
親には健康に、いつまでも元気なまま生きてほしいと思いますし、ご本人もそう願っているはずです。
この「介護ハッピーアドバイス」では、皆さんが明るい気持ちで介護に臨めるようになることを目的に、専門家からのアドバイスをお届けしていきます。
今回は健康に長生きしてもらうために重要なキーワード「フレイル」を解説しましょう。
具体的な予防方法や、チェックリストもあるので、ぜひ確認してみてください。
健康寿命とは?
今は平均寿命よりも「健康寿命」が注目されています。
健康寿命の意味は、以下のとおりです。
健康寿命とは、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間である
引用:3 健康増進の取組(健康寿命の延伸等) – 国土交通省
世界保健機構(WHO)が提唱しており、言い換えると、介護が必要なく、自立した生活ができる期間を健康寿命といいます。
2019年のデータでは、日本の平均寿命は、男性81.5歳、女性86.9歳ですが、健康寿命は、男性72.6歳、女性75.5歳で大きな隔たりがあります。
男性は約9年、女性は約11年、要支援や要介護状態の期間があるのです。
平均寿命が延びても、寝たきりの期間が長くては、介護する側もされる側もつらいでしょう。
そこで、いかに健康寿命を延ばすかが問題となります。
このとき重要なのが「フレイル予防」です。
寝たきり予備軍「フレイル」とは?
要介護になる前の危うい健康状態を「フレイル」と言います。
いわゆる「寝たきり予備軍」であり、筋力や心身の活力が低下した状態です。
フレイルになると、慢性疾患に悩まされたり、疲れやすくなったりします。
また、ストレスに弱い状態となり、さまざまな合併症を引き起こすリスクもあるので、早めに対処して予防する必要があるのです。
風邪をひいたとき、通常ならば何日かすれば治りますが、フレイル状態の人は風邪をこじらせて肺炎になってしまうこともあります。
ちょっとしたことで日常生活が困難となり、要介護になってしまいます。
フレイルになるタイミング
健康寿命を終え、人の助けが必要になるタイミングはそれぞれです。
病気の発作で倒れたり、転倒、骨折がきっかけになることもあります。
病気やケガの予防は大事。
しかしはっきりしたイベントがなくても、徐々に心身が弱っていく人が多いのです。
多くの人は加齢とともに、健康→フレイル→要介護→死亡へと進みます。
フレイルは身体が弱るだけでなく、社会的(独居、貧困など)、精神心理的(認知症、抑うつなど)な面も含む広い概念です。
心身の衰えを早期発見、対策を行えば、要介護→フレイル→健康と戻る可能性もあります。
メタボ健診からフレイル健診へ
フレイルを予防するため、国を挙げて対策が行われています。
健康寿命を延ばすために、2020年から75歳以上の後期高齢者を対象とした検診が大きく変わりました。
これまでは生活習慣病予防のための「メタボ健診」でしたが、フレイル予防、重症化予防に着目した「フレイル健診」となったのです。
メモ:メタボについて
メタボリックシンドロームのこと。内臓の周囲に脂肪がたまり、さらにいくつかの生活習慣病が重なった状態を表す言葉。
フレイル検診では、以下の10の視点から15の質問票が作成されました。
(1)健康状態、(2) 心の健康状態、(3)食習慣、(4)口腔機能、(5)体重変化、(6)運動・転倒、(7)認知機能、(8)喫煙、(9)社会参加、(10)ソーシャルサポート
問題があれば、それぞれの項目について指導されます。
フレイル問診票について具体的な内容をお知りになりたい方はこちらをご参照ください。
https://sumai.panasonic.jp/agefree/products/frailty/file/frailtycheck.pdf
(参照:パナソニック エイジフリー株式会社)
フレイルを早期発見!チェックリスト
ここでは、簡単なチェックリストを示します。
項目が3つ以上該当するようであれば、フレイルかもしれません。
のちほど、より詳しいチェック方法もご紹介しますので、参考にしていただければと思います。
身体的フレイルの原因
フレイルには身体的、社会的、精神心理的という3つの側面があります。
身体的な側面:加齢による筋力の低下
社会的な側面:閉じこもり、孤立、孤食
精神的な側面:認知症やうつ
この記事では、身体的フレイルにつながる原因を説明したいと思います。
高齢者は痩せすぎに要注意!
あなたは、ご自分の理想体重をご存知でしょうか。
健康を維持するには、ちょうどよい体重を保つことが大切です。
健康診断などでBMIという文字を目にされることがあると思います。
これは、肥満の程度を数字で判断するための基準で、自分にとって丁度いい体重(適正体重)がわかります。
BMI=体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}
BMIの値が22であれば最も健康、それ以上だと肥満で、心筋梗塞や脳卒中など重い病気につながり、死亡リスクが高くなると言われてきました。
しかし65歳以上の人は少々の過体重でも問題なく、BMI22以下のやせの方が死亡リスクが高いことがわかっています。
160cmの人ならば、1.6×1.6×22〜24=56〜61kgが理想の体重で、55kg以下の方は要注意です。
高齢者は低栄養で痩せることによって、フレイルへとつながっていくのです。
年齢とともに筋肉量は減少する
なぜ高齢者はやせていくのかといいますと、年齢とともに筋肉量が減っていくからです。
年齢とともに筋肉量が減っていくことを「サルコペニア」と言います。
筋肉量が減少すれば、筋力(筋肉の力)も低下します。
サルコペニアは身体的フレイルの大きな原因となるのです。
サルコペニア(筋肉量の減少)のチェック方法
では、サルコペニア(筋肉量の減少)はどうすればわかるでしょうか。
ふくらはぎを両手の人差し指と親指で囲んでみて(指輪っかテスト)、隙間があれば、サルコペニアの可能性があります。
また握力や歩行速度からも、筋肉量を確認できます。
握力が男性で26kg未満、女性で18kg未満、歩行速度が1秒間あたり0.8mより遅い場合は、筋力が低下しているといえるでしょう。
フレイルチェックリストの例以外にも、転びやすくなった、ビンのふたやペットボトルのキャップが開けられない、米はスーパーから持って帰るのが大変なのでパン食が多くなった、などの変化があれば要注意です。
中年期からメタボリック症候群の人は、体重はちょうどよくても筋肉が減り、脂肪が増えていることがあります。
「サルコペニア肥満」と言われ、やせと肥満の悪いとこ取りで、より注意が必要です。
骨や関節、軟骨などの痛み
病院やクリニックには、膝が痛い、腰が痛い患者さんがあふれています。
待ち時間が長くて大変ですが、痛みはとても辛いことなので、みなさん耐えているのです。
筋肉量が減るという原因の他に、骨、関節、軟骨、椎間板などの運動器の障害のために、移動が難しくなりつつある状態が「ロコモティブシンドローム」です。
骨や関節の痛みなどで歩いたり立ち上がったり座ったりしにくくなることで、略してロコモと言われます。
身体的フレイルの原因になり、要介護、寝たきりにつながります。
ロコモの確認方法:チェックリスト
ロコモを確認する方法として、日本整形外科学会のページで紹介されているチェックリストと立ち上がりテストがあります。
まずはチェックリストで確認してみましょう。
チェックリストは7項目です。
1つでも当てはまれば骨や関節、筋肉が衰えている心配がありますから、対策が必要です。
フレイルのチェックリストと少し重なる部分がありますが、より詳しいチェックですので、ぜひたしかめてみてください。
ロコモの確認方法:立ち上がりテスト
続いて、立ち上がりテストで確かめてみましょう。
10cm~40cmの台から手を使わずに立ち上がれるかを確認するものです。
できるかどうか、ぜひ実践してみてください。
【注意点】
・無理をしないようにしましょう。
・実施する際、膝に痛みが起きそうなときは中止してください。
・反動をつけるとうしろに転倒する恐れがあります。
テストの時はじゅうぶん注意して行ってください。
ロコモ該当なし
片足で40cmの台から立ち上がれたあなたは、ロコモには該当しないと考えられます。
ただ、身体の衰えは誰にでもやってくるもの。
引き続き、運動や食事に気を付けて健康な体を保ちましょう。
ロコモ度1
筋力やバランス力が落ちてきています。
運動を習慣づけたり、バランスの取れた食事を摂ることを心掛けたいところです。
このあと紹介する運動や食事のポイントを実践して、早めの対策をしましょう。
ロコモ度2
自立した生活ができなくなるリスクが高い状態です。
もし痛みがある場合は、骨や関節などの運動器に疾患を発症している可能性もあります。
一度整形外科で診てもらうことをお勧めします。
ロコモ度3
移動機能の低下が進み、自立した生活ができなくなるリスクが非常に高いです。
骨や関節など、何らかの運動器に治療が必要な状態かもしれません。
整形外科での診療を受けることをお勧めします。
フレイル予防のための6つのポイント
フレイルは、筋肉減少(サルコペニア)→活動量低下→食事量低下→低栄養→筋肉減少(振り出しに戻る)という悪循環で要介護に進んでいきます。
そこに骨折などのロコモティブシンドローム、認知症、嚥下機能低下による誤嚥性肺炎が加わると拍車がかかり、勢いよく2回転3回転して寝たきりに。
ですから、この悪循環を断つことが大切です。
フレイルの予防には、栄養と運動がカギ、貯金よりも貯筋(チョキン)が大事です。
寝たきりを予防するために、6つのポイントをおさえておきましょう。
1.適量でバランスのよい食事を心がける
私たちの体は、食べ物でできていると言っても過言ではなく、食事が乱れていては健康長寿は望めません。
食事の量は、なるべく理想体重を目指して調節しましょう。
口でよく噛む、ムセなくしっかり飲み込むことが大事です。
ご家族でサポートしていただくとよいと思います。
2.タンパク質を十分に取る
栄養の中でも年齢とともに不足しがちになるのがたんぱく質。
肉、魚、卵、乳製品には、筋肉の材料になる良質のたんぱく質が豊富です。
ぜひ、毎日の食事に取り入れていただきたい食材です。
3.ビタミンDを取り入れる
ビタミンDには筋肉を作らせる働きがあります。
魚、シイタケ、卵に多く含まれますので、こちらもなるべく食べるようにしてください。
またビタミンDは日光に当たると皮膚で作られます。
外に出かけるよう促すことも大切です。
サプリでも補給できますが、その場合は摂取量を守りましょう。
食事について、詳しくはこちらの記事でもまとめていますので、ご参照ください。
4.筋肉トレーニングで貯筋(チョキン)
週に2〜3回、60分程度の筋トレが推奨されています。
具体的な方法は別の記事でご紹介したいと思います。
その人の状態に応じて、寝たままお尻を上げる、イスに座って足を上げるなど軽い運動でも効果があります。
たんぱく質摂取との併用で、貯筋(チョキン)額が増えていきます。
5.有酸素運動(ウォーキング)をする
ウォーキングをすることにより、内臓機能が向上します。
可能ならば1日8000歩が目標ですが、無理せず少しずつ歩数を増やしていけば大丈夫です。
階段上りや早歩きを取り入れれば、筋肉にも効果があります。
運動についてはこちらでも記事を書いていますので、ご覧ください。
★フレイル・転倒・骨折の予防には運動がカギ!足の運動能力を上げる筋トレ・体操を紹介
6.生きがいをもつ
キョウヨウとキョウイクとが大事!
教養と教育ではありません。
「今日用事がある」「今日行くところがある」ことが大切です。
歩いて行ける場所にある趣味のサークルや、地域の集まりに顔を出すように提案してみてはいかがでしょうか。
家にこもらず、生きがいを持って楽しみながら健康寿命を伸ばしましょう。
まとめ:寝たきりの予防には早めの対策がカギ
長年診療をしていると、たくさんの患者さんとの出会いと別れがあります。
初対面の当日に亡くなる方、しばらく診療して亡くなる方。
一方、病気とともに長生きされる方もあります。
それでも、元気だった60代の患者さんも70代になり、やがて80代、90代と歳を重ね、心身ともに弱っていきます。
弱っていく親は見たくない。いつまでも元気で長生きしてほしい。
これは多くの人が感じていることでしょう。
健康寿命を延ばし、寝たきりにさせないためには、心身の衰えを発見し、今から対策をしていくことが重要なのです。