両親、妻や夫、会社の上司や同僚、友人など、私達はいろいろな方の支えがあってこそ生活ができています。
しかし、いつもお世話になっていながら、当たり前に思って、なかなか感謝を言えないことも多いのではないでしょうか。
「感謝の心のない人は最も不幸な人」とまでいわれるほど感謝することは大事ですが、それにはまず「恩」を知らないと感謝の心も出てきません。
子どもにもぜひ伝えたい、仏教で懇ろに教えられる「恩」について学んでみましょう。
登場人物
![]() 奈々
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原田店長の娘(小学4年)。お父さんのいるカフェの勉強会にも参加し、大人顔負けの質問をする。 |
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![]() ふじ江
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内孫と外孫、合わせて7人の孫を持つおばあちゃん。書道の腕前は超一級で、自宅で書道教室を開く。仏教塾ではベテラン選手。 |
![]() 塾長
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仏教塾いろはの塾長。アメリカの大学で仏教の講義をしていた。店長とは旧知の仲。 |
学校から元気よく帰ったきたナナ。カフェで腰かけていたふじ江に話しかける。
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ふじ江おばあちゃん、こんにちは!
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あら、ナナちゃん、こんにちは。いつも元気で、おばあちゃんも元気になるわ。
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えへへ。。 あれっ?おばあちゃんお手紙書いてるの?
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ええ、近所の人にお菓子を頂いたから、お礼の手紙を書いているのよ。
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お菓子をもらっただけなのに?お手紙書くの?おばあちゃん、すごいね!
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すごくないわよ。それどころか、わたしなんて恩知らずな人間よ。だからこそお礼状を書かないとね。
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? 恩知らずだからお手紙出すってどういうこと? おばあちゃんすごく礼儀正しいのに。
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これは大切なことだから、ぜひ知ってもらいたいわね。あ、塾長さん、いいところに。「恩」についてのお話をしていただけないかしら。
そう言って、ふじ江がそばを通りかかった塾長を呼び止めた。ふじ江の呼びかけにこやかに応対する塾長。
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おっしゃる通り、「恩」は仏教でも特に大事な内容ですね。ぜひお話ししましょう。
「恩」を知ると、感謝の気持ちがわいてくる
塾長:
ナナちゃんは、「人」っていう漢字は書けるかな?
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うん、書けるよ~。
「人」という字は、2つの棒が支え合ってるように見えるよね?
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ホントだ!そういうふうにも見えるね。
どちらか1つの棒がなくなったら、もう片方の棒は倒れてしまうよね。
それと同じように、僕たちは一人で生きているんじゃなくて、いろいろな人に支えてもらって生きてるんだ。
たとえばナナちゃんだったら、お父さん・お母さんがいなかったら、どうなるかな?
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夕ごはんが食べられなくなっちゃうよ~。
確かにそうだね(笑)他にどんな人に支えてもらってるかな?
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う~ん、おじいちゃんとかおばあちゃん、あと友達かな~。困ったときはみんなが助けてくれるよ。
いろいろな人に助けてもらっているんだね。
ところでナナちゃんは、その人達に助けてもらったときに「ありがとう」という気持ちを伝えているかな?
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ううん、あんまり言えてないかも。
やってもらって当たり前と思っていると、なかなか「ありがとう」という気持ちが出てこないよね。
でも、当たり前のことって、あるのかな?
友達が助けてくれたのは当たり前じゃない。友達も遊びたいと思いつつも、ナナちゃんに元気になってほしいから助けてくれたとしたら、どう感じるかな?
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とっても嬉しいし、「ありがとう」って言いたくなる!
そうだね。全部、当たり前のことじゃないと思えたら、「ありがとう」っていう気持ち、感謝の気持ちが出てくる。
こんなふうに、「あの人のおかげで私は助けてもらえた、ありがとう」と感じることを「恩」というんだ。
「恩」について仏教では詳しく教えられているんだよ。
ちょっと難しく感じるかもしれないけれど、仏教の本の内容を学んでみようね。
お釈迦さまは、「知恩(ちおん)」「感恩(かんおん)」「報恩(ほうおん)」の三つを教えられています。
知恩は、恩を知ること。感恩は、恩を感じること。報恩は、恩に報いることです。
「恩」という字は、「因」と「心」からできています。
言い換えれば、原因を知る心が「恩」なのです。
つまり、今の自分が生きているのは、さまざまな人や物のおかげを受けている。それを知るのが恩なのです。感謝ができないのは、そもそも自分が受けている「おかげ」を知らないからです。
自分がいろいろな人や物に支えられていることを知れば、「ありがたいな」「うれしいな」という感謝の心がわいてきます。だからまず、知恩(自分が支えられていることを知る)が最初です。
そうすれば、必ず感恩(感謝の気持ち)がわいてきます。
すると、「自分を支えてくれた人のために頑張ろう」という気持ちになる。これが報恩です。(『幸せのタネをまくと、幸せの花が咲く』岡本一志著 より引用)
「今の自分が生きているのは、さまざまな人や物のおかげ」と知るのが「恩」であり、「恩」を知ると、感謝の気持ちがわいてくるんだね。
感謝のない「恩知らず」な人は、独りぼっちで不幸になる
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「恩」って、そういうことなんだね。そうなると、やっぱりおばあちゃんはすごいね。お菓子もらったことに「恩」を感じて、お礼のお手紙まで出すんだもん。
本当に、すごいね。「そこまでするの?」って驚くよね。
でも、さっきも話していたことだけれど、僕達は残念なことに「恩」を感じることが少なくて、人からしてもらったことを当たり前に思いがちなんだ。
だから、お礼や感謝の気持ちを十分に伝えられていない。
そういう人は「恩知らず」といわれるんだ。
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恩知らず…。う~ん、なんか、とってもイヤな言葉だね。。
そうだね。仏教では、この「恩知らず」と言われることは、最も恥ずかしいことだと教えられているよ。仏教ではそれほど「恩」は大事なものと教えているんだね。
そんな「恩知らず」のまま、もらうばかり、受け取るばかりでいたら、どうなるだろう。
ナナちゃんが誰かを助けてあげたり、プレゼントをあげたりしたときに、相手から何も言われなかったら、どう思うかな?
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何も言われなかったら、かなしいよ~。
そうだね、悲しいし、残念な気持ちになるよね。
もちろん、してあげる側は、たとえ相手に何も言われなくても、相手が喜んでくれればいい、という心がけが大切だね。
ただ、してもらった側の方は、当たり前に受け流さずに、感謝を伝えるのが「当たり前」だね。
感謝のない人には、「またしてあげよう」という気持ちにはならなくなる。
そうなると感謝のない「恩知らず」な人からは、みんな離れていってしまい、独りぼっちで不幸な人にさえなってしまうね。
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そんなのイヤだよ~、ナナもこれからもっと感謝の気持ちを伝えられるようにしたいな。
ナナちゃん、その気持ちが大事なんだよ。
おばあちゃんを見習って、してもらったことは、たとえ小さなことでも、お礼を言えるといいね。
日頃からお世話になっている先生や近所の人、お父さんやお母さんにも「ありがとう」を伝えると、みんな喜ぶと思うし、ナナちゃん自身も幸せな気持ちになれるよ。
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うん、わかった!…それと、教えていただき、ありがとうございました!