登場人物
![]() 真理子
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2人の子どもを持つ、会社勤めの主婦。快活な性格。お気に入りのカフェで行われている「仏教塾いろは」の存在を知ったばかり。 |
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![]() 智美
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真理子さんのママ友達で、在宅でデザインの仕事をしている主婦。 今日は子どものことで、何やらお悩みの様子。 |
![]() 塾長
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仏教塾いろはの塾長。アメリカの大学で仏教の講義をしていた。店長とは旧知の仲。 |
浮かない表情の智美に話しかける真理子。
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はあ、どうしよう…
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どうしたの、智美さん。また何か困りごと?
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あ、真理子さん。実は上の子のことで悩んでいて…。上の子、まったく勉強しないんです。かといって頭ごなしに叱って無理に勉強させようとしても、長続きしないですよね。このまま勉強しない子になってしまったら、将来が心配で…
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それは確かに心配よね。うちの子も勉強するほうじゃないし…。塾長さんなら、何か良いヒントをくれるかもしれないわ。聞きに行ってみましょう!
子どもを偉人へと導いた「孟母三遷の教え」
「どうしたら子どもが勉強するようになるのか」
このことで悩まれている方はとても多いと思います。子どもに勉強をする習慣がないと、その子の将来も心配になってしまいますよね。
そんな方にぜひ知っていただきたいのが、ある方法によって、歴史に名を残す思想家へと子どもを導くことができた母親のエピソードです。
それは次のような話です。
中国の有名な思想家、孟子は、少年時代、墓場の近くに住んでいました。学業はそっちのけで、葬式ごっこをして遊んでばかりだったので、母親は見るに見かねて商店街に引っ越しました。
すると、「今日はいくら損した得した」という商人の会話を聞いて育ちました。孟子に家事を頼むと、「時給いくら?」と言ってきたり、損得勘定で動いたりするようになってきました。
子供の頃から損得だけで動く人間になってはいけないと心配した母親は、ついに学校のそばに引っ越しました。すると、周りには勉強熱心な友達も多く、学校の先生も近くに住んでいたので、孟子は一生懸命に勉強するようになったという話です。
孟子という人は、今日でも教科書に出てくるような人ですから、もともととても優秀な人だったと思いますが、もし学校のそばに引っ越さなければ、歴史に名を残す思想家にはなっていなかったと思います。
岡本一志著(2012).『幸せのタネをまくと、幸せの花が咲く』より引用
このエピソードから「孟母三遷(もうぼさんせん)」という言葉が生まれました。
孟子のお母さんが三度も住居を変えたことでついに適切な場所が見つかり、孟子が立派な人間に育ったことから、「子供の教育には、よい環境を選ぶことが大事だ」ということを教えているのですね。
「縁」を変えることでガラリと結果が変わる
仏教を説かれたお釈迦様は
「因と縁とが結びついて初めて結果になるのだよ」
と教えていかれました。
因というのは私たちの行いのこと、縁というのは環境や周りの人のことです。
毎日食べているお米でいえば、因にあたるのはモミダネです。モミダネがなければ絶対に米はできません。
ではモミダネさえあれば米ができるかいうと、そうではありません。机にモミダネに置いておいても、何も起きませんね。
モミダネという「因」に土や水、太陽の光という「縁」が加わって初めて、米という「結果」になるのです。
モミダネはそのままでも土や水の質を良くすれば質のいいお米が採れるように、身を置く環境や付き合う人を変えることで結果は変わるのですね。
私たちは環境や付き合う人に大きく影響を受けます。
「孟母三遷の教え」では、学校の近くに引っ越したことで、勉強熱心な学生など目に触れるものが良くなり、孟子はとても良い影響を受けました。
反対に悪い環境に身を置けば、どんなに心の強そうに見える人でもそこから悪影響を受けてしまいます。良くも悪くも「朱に交われば赤くなる」のです。
「孟母三遷の教え」を現代に生かすなら、子どもが勉強したくなる、勉強に集中できる環境を家の中につくることが大事ですね。
目に付く所にゲームやマンガなどの誘惑物は置かない。あえてリビングに学習スペースをつくってあげるなど、その子にとって何が良い環境なのか、いろいろ試してみるといいと思います。
子どもにとって一番大きな縁は「あなた自身」
しかし子どもにとってどんなに素晴らしい環境を用意しても、子どもが勉強している傍らで親が楽しそうにテレビを見ていたら、子どものやる気は下がってしまうでしょう。
勉強しやすい環境づくりも大事なのですが、子どもにとって一番大きな縁は、やはり両親の存在です。
古くから「親の背を見て子は育つ」といわれるように、親が自分の課題に一生懸命になっている姿を見せることも大事です。
こんな話があります。
ある大学教授の、しみじみ語ったことである。
「私に五歳になる男の子がいる。半年ぐらい前までは、だれが呼んでも元気よく“ハイ”と返事をした。
ところがどうしたことか。このごろ、とんとしなくなったのである。
よく考えてみると原因が、どうも私自身にあったらしい。
仕事に忙殺されて、妻が呼んでも、つい黙って仕事を続けることが、たびたびあった。
それを見ならって子供は、返事をしなくなったようである。
そこで私は、なんとかこれを矯正せねばならぬと、いろいろ試みたが、さっぱり効果が現れない。
最後にそして気がついた。私自身がまず、だれかから呼ばれたとき、はっきり返事をするのが一番と。
するとどうだろう。いつとはなしに子供は“ハイ”と快活に答えるようになったではないか。ふたたびこうして、家の中に明るさを取りもどすことができたのである」
高森顕徹著(2010).『新装版 光に向かって100の花束』より引用
大人がどうしているのか、子どもはよく見て、真似をしようとします。
大人の良い習慣ならどんどん真似をしてほしいですが、悪い習慣を真似してしまうと大変ですね。
親が自分の目標に向かって一生懸命進んでいる姿を見せれば、必ず子どもにも良い影響を与えて、子どもも自らの課題に一生懸命取り組むようになるでしょう。
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塾長のお話、思い当たることがたくさんありました。子どもとって良い環境を整えてあげることが大事なんですね。それに子どもにだけやらせようとするんじゃなく、私自身も子どもの手本になれるよう、がんばります!
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智美さんが前向きになってくれて嬉しい。私もたくさん勉強になったわ。一緒に子どもの良い習慣づくりをしていきましょ!
まとめ
- 仏教では因(=行い)と縁(=環境)とが結びついて結果になる、と教えられています。ゆえに良い縁を選ぶことが大事です。現代でいえば、子どもが勉強がしたくなる環境づくりが大切ですね
- 子どもにとって一番大きな縁は両親。親が一生懸命課題に取り組む姿を子どもに示すことも重要です