(80)母の舌一枚が
子供の一生を左右する
貧しい食料品店の息子に生まれたガンベッタが、フランスの大政治家になるまでの麗しき母子の物語。
彼は十五、六歳のとき、町の洋服屋へ働きにいかされたが半年もたたないで帰ってきた。
短気な父は叱りとばして、店の手伝いを言いつける。沈んでいる我が子を慈しむ母は、静かにやめた理由を尋ねた。
「あの仕事は、オレの気に向かんのです」
「では、どんなことがやりたいの」
「立派な政治家になって、みんなを幸せにしたいのです」
「大きな望みをもっても、途中でくじけてはなんにもなりませんよ」
「どんなに苦しくても、やりとげたいのです」
「それには、どれくらいお金がいるのかい」
「三百フランあればパリへ行って職を探し、必ず志を遂げます」
「おまえにさえ覚悟があるのならお母さん、なんとしてもその費用を用意してあげよう」
決死の母は、やがて三百フランの金をガンベッタの前に並べて、
「さぁこれで存分におまえの望みを果たしなさい」
と励ました。