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1万年堂出版

第1章

6 愛は4年で終わる──その危機を脱するためのニーチェのアドバイス

 愛が芽生えると、脳の中の覚醒剤PEAの働きで、性交して子供を生むのに十分な期間、恋人同士引かれ合います。その情熱が冷めたころには、脳内麻薬エンドルフィンによって夫は妻に強く愛着し、家庭にとどまって妻子を守ります。

 結婚生活は2人に人生最大の幸せ(ほんわか気分)をもたらすでしょう。この「ほんわか気分」と密接な関係のある物質が、「幸福ホルモン」セロトニンです。脳内のセロトニンが多いと、いやされ落ち着いた気分になりますが、減少するとゆううつになり、自殺しやすくなります。

 結婚すれば、まず間違いなくセロトニンの力で「ほんわか気分」に包まれるでしょう。恋人たちの脳で何が起きているか知ると、私の体が実にうまくできていることに、感心させられます。

 しかし、感心している場合ではありません。
 確かにほとんどの人は、結婚すれば平均して4年間は幸せです。しかし逆にいえば、その至福は4年の命です。多くの国で、結婚して2年たつと離婚する人が増え始め、4年めにピークを迎えます。4年めの浮気を乗り越えると、離婚率は減ります。

 なぜ愛は4年で終わるのか。

 4年たったらパートナーを変えたほうが、子孫を多く残すのに有利だったからでしょう。モンテーニュ*1は「本人がどう言おうと、我々は自分のために結婚するのではない。むしろ子孫のために結婚するのだ」*2と言っていますが、結婚だけではありません。結婚も離婚も浮気もすべて、優れた子孫を多く残すためなのです。

 アメリカで最も著名な人類学者の1人、H.フィッシャーの学説を紹介します。私たちの祖先は、どのような婚姻生活を送っていたのでしょうか。今日の伝統的な社会を調査すると、子供が乳離れするのに必要な期間は、ほぼ4年です。この数字が離婚のピークと一致するのは、偶然ではないでしょう。

 今日のように核家族化が進んでおらず、複数の家族が集団で生活していた原始時代には、乳離れした子の世話は周囲に任せ、配偶者を変えて新しい関係を結ぶことができたと考えられます。両親が異なれば子供の体質も変わりますから、伝染病が流行しても全滅は防げるかもしれません。

 環境がころころ変わる厳しい自然界では、似たような子ばかり生むのは危険です。日本では平成5年の冷夏で記録的な米不足が生じ、「平成の米騒動」といわれましたが、人気のある品種ばかり作っていると、環境が激変した時に、ことごとく不作になります。「新型インフルエンザ」など未知のウイルスが人類を脅かしていますが、新しい伝染病に対抗して子孫を残すには、可能な限り多様な子供を残すべきでしょう。
 子孫を増やすことだけ考えれば、子が離乳したらパートナーを変えるのが最適です。この賢い戦略を、私たちの祖先は進化の過程で身に着けたのではないでしょうか。

 そうでなければ、若い夫婦ほど離婚率が高いことが説明できません。これは普通に考えられるのとは、正反対の現象です。結婚して20年、30年過ぎれば飽きるでしょうし、子供も社会に出るのですから、そのあとで熟年離婚するなら納得できます。

 しかし実際には、男女ともに離婚に踏み切る数が多いのは、20代の生殖能力が盛んな時です。「まだやり直せる」可能性が高いほど、別の人と再婚する可能性が高まるのです。特に女性の側が経済的に豊かで、夫に頼らず生活できると、よけい離婚率が高まります。

 逆に子供が多くなるほど、また夫婦の年齢が上がるほど、新しい生活を築いて子を生む負担が大きくなるので、離婚の動機も弱まるのです。若いうちに経済力のある女性と結ばれるのは、統計学的には最もリスクの高い結婚です。

 結婚の幸せも4年とは……。

 しかし、4年後に離婚するカップルが多いのは事実ですが、大多数の夫婦はその危機を脱して結婚生活を続けています。愛は続かないという当然の学説より、こちらのほうが注目すべき現実です。愛が終わる人、終わらない人、どこが違うのでしょうか。

 愛のときめきが4年で消えた時、「こんなはずではなかった。私の求めていた結婚は、もっと別にあるはずだ」と、新たな出会いを望む人は、4年後に同じ悲運に見舞われる可能性があります。私たちの脳には、結婚すれば幸せになるシステムと、その喜びを終わらせるシステムと両方あるからです。

 自分の脳に振り回されないためには、星の王子様と運命の結婚をすれば幸せになれるという幻想を捨て、もっと賢い愛し方を模索しなければなりません。それは困難な道ですが、多くの人が一時の情熱が冷めたあとで、本当の愛を見いだしています。本当の愛とは……。

 ニーチェに答えてもらいましょう。

誰がこの愛を知っているだろうか? 誰がこの愛を体験したろうか? この愛の本当の名は友情である。(悦ばしき知識)

 安定した結婚には、趣味や興味の一致が欠かせない要素だとよくいわれます。友達として末永くつきあえる人を探しましょう……。孤高の哲学者ニーチェからのアドバイスでした。

*1モンテーニュ 16世紀のフランスの思想家
*2「エセー」
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