- (97)食べ物ばかりでなく、
人生なにごとも七、八分が良い
- 織田信長が尾張から決起して天下を取り、京都へ乗り込んで、
羽振りを利かしていた頃である。
厨房役を引き受けていた料理人は、八十六歳の老人だった。
ある日、信長がこの老料理人を呼んで尋ねた。
「貴様は八十六歳だというに、すこぶる達者だが、何か健康法でもあるのか」
「畏れ入ります。私はただ、料理人なるがゆえに達者でございます」
「それはまた、どういうワケだ。世間でよく料理人は先に、いろんなおいしいものを食い荒らすから余計に短命だと聞いているが、その方はどうじゃ」
「私は長い間料理一筋務めまして、儀式か何かの場合によく鶴を使います。他の鳥は、胃袋がはち切れるほど食っておりますが、この鳥はいつ料理いたしましても、胃袋には七分しか食べ物が入っておりませぬ。
鶴の長命はこれに限る、人間も食べ過ぎてはいかぬと知らされ、私は常に七、八分より食べないことにしております。
これは始終手にかけた鶴に教えられたことで、おかげで長命を保っております」
と答えたという。
オランダの名医ブールハーフェの遺言集は大冊だが、その表紙には『医術の極意』と題し、最後のページにはこう大書してあった。
「頭寒足熱 腹八分」
七、八分が良いのは、食べ物ばかりのことではなく人生何事にもいえよう。
だれかれの見境もなく思うままに言いすぎて失敗したり、相談を受けもせぬのにあれこれ指図して嫌われる。
親切も度がすぎれば迷惑となる。
貝原益軒もこう諭している。
「おもいを少なくして心を養い、欲を少なくして精を養い、飲食を少なくして胃を養い、言を少なくして気を養うべし。これ養生四寡なり」
- 123話の中から、3話を全文掲載しています。
(4)"ありがとうの言葉
(80)母の舌一枚が子供の一生を左右する
(97)食べ物ばかりでなく、人生なにごとも七、八分が良い